
umikaとUR都市機構が取り組む福山駅前・伏見町のまちづくり ― StoryHubが可視化した約50名の声と、地域の合意形成を支える実践
2026年03月05日
株式会社umika、独立行政法人都市再生機構(UR都市再生機構)
建築デザイン・不動産活用を手掛ける株式会社umikaは、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)と連携して進める、広島県福山市の福山駅前エリアのまちづくりプロジェクトにおいて、StoryHub株式会社のオールインワン編集アシスタント「StoryHub」を導入しました。
多くの地権者や関係者が存在する同エリアにおいて、約50名への個別ヒアリングを実施。従来は膨大な時間を要していた「聴く」プロセスをAIで効率化しつつ、定例会などの場では埋もれがちな個人の本音や小さな物語を掘り起こすことに成功しています。
「経済原理だけでは動かない地方都市のまちづくりにおいて、AIは地域の声を見える化し、地域の合意形成を支える存在になる」と語る両氏に、導入の背景と成果、今後の展望について伺いました。
■プロフィール
谷田 恭平氏
株式会社umika代表取締役。
東京と広島の2拠にて建築デザイン・プロデュースを本業に、事業企画やブランディング、まちづくりまで横断。「ローカルを地域価値にする」をビジョンに掲げ、実践を瀬戸内・福山から展開している。 会社のリンク:https://umika.jp/山根 大尭氏
UR都市機構 西日本支社
都市再生業務部 中国まちづくり支援事務所 業務企画課
中国地方の都市において、行政のまちづくり計画の策定、実現を支援。福山駅前・伏見町では、市の計画実現に向けた地域の合意形成、体制構築支援等を担い、多様な関係者とともにプロジェクトを推進。
導入前の課題
・まちづくりにおいて、集団の場では本音が出にくく、一人ひとりの話に耳を傾けることも難しく、個別の意見を拾い上げるのが困難だった。
・個別ヒアリングの効果は高いが、録音の聞き直しや要約、整理に膨大な時間がかかり実施することが難しい。
・担当者の定期的な異動により、地域住民との信頼関係や蓄積された文脈(ストーリー)が引き継がれにくい状態だった。導入後の効果
・約2か月で50名規模のヒアリングと情報整理を実施。作業時間を大幅に短縮した(例:計7時間の業務を約3時間に圧縮)。
・ヒアリングに不慣れな若手スタッフでも一定の品質で情報を収集・整理できる体制を構築できた。
・一人ひとりの話に耳を傾けられたことで、地域固有のエピソードや行政方針と住民ニーズとのギャップなど、まちづくりに活きるさまざまな情報が可視化された。
——まず、お二人が取り組まれているプロジェクトの概要と、それぞれの役割について教えてください。
山根: 私たちUR都市機構は、大都市圏から地方都市まで幅広く都市再生に取り組んでいます。ハード面の整備だけでなく、計画策定や体制構築といったソフト面の支援も行っています。
福山では、市からのご要請を受け、計画策定支援に加えて福山駅東側に位置する「伏見町」のまちづくりを支援させて頂いております。独立行政法人であるURは、その立場を生かして多くのステークホルダーの間に入り、公平・中立的な視点から支援を行っています。
谷田: 私は建築デザイン会社であるumikaの代表を務めています。設計にとどまらず、シェアキッチンや宿泊施設、飲食店などを運営し、不動産の活用やブランディングも手掛けています。いくつかの事業がこの伏見町エリアに根ざしており、また私自身が伏見町商店会の副会長という立場でもあるため、まちづくりの「当事者」の一人としてURさんと連携しています。
——地域に入り込んで活動される中で、どのような課題を感じていたのでしょうか。

(株式会社umika 代表取締役 谷田 恭平さん)
谷田: まちづくりにおいて最も重要なのは、そこにいる人々の声を聞くことです。しかし、月1回の定例会のような場では、みなさんが参加できるわけではありません。参加できたとしても、大勢の前ということもあり、本音を話すことが難しい方もいらっしゃいます。
一方で、一人ひとりに話を聞こうとすると、生産性の問題に直面します。例えば1時間のヒアリングを行った場合、その録音を聞き返し、要約・整理する作業には従来6時間ほどかかっていました。合計7時間の業務コストが発生するため、50名全員に話を聞くというのは現実的に困難でした。
山根: こうしたまちづくりにおける課題に加えて、URには「情報の継承」という課題がありました。私たちは組織の性質上、一定期間で担当者が異動します。引継ぎは行われますが、日々の対話の中で積み重ねられるニュアンスや背景まで共有することは難しい側面があります。「前の人には話したのに」という状況が生まれると、信頼関係も途切れてしまいます。まちの人々の「当事者の想い」や「文脈」をいかに継承していくかが、大きな課題でした。
——そこでStoryHubを導入されたのですね。導入の決め手や、実際の運用体制についてお聞かせください。
谷田: AIツールを模索する中でStoryHubを知り、これなら「個別の声を拾い上げつつ、生産性を高める」ことができると直感しました。すぐにトライアルを開始し、実際のヒアリングに活用をし始めました。
具体的には、商店会や町内会など約50名を対象にヒアリングを実施。ヒアリングに慣れていない地域住民の方は、話す内容が飛び飛びになりやすく、以前であればまとめるのは一苦労でしたが、StoryHubは他のAIツールと比べても話をまとめる精度が高かったですね。
従来はベテランが時間をかけて行っていた作業ですが、今回は事前に質問項目を設計し、StoryHubを活用することで、入社間もない若手スタッフでも一定以上の質で情報をまとめられるようになりました。
StoryHubを使うことで、ヒアリング後のまとめ作業も含めてトータル3時間程度に圧縮できた感覚です。

(UR都市機構 西日本支社 都市再生業務部 中国まちづくり支援事務所 業務企画課 山根 大尭さん)
山根:また、これまではヒアリング中に必死にメモを取る必要がありましたが、録音して後でAIがまとめてくれるという安心感があるため、対話そのものに集中できるようになりました。現場では相手の目を見て話を聞くことができ、雑談のような自然な会話の中で深い話を引き出せるようになったのは大きな変化です。
——実際に50名の声を集めてみて、どのような発見がありましたか。
山根: 定量的なデータには表れない、地域の「記憶」や「手触り」のようなものがたくさん出てきました。例えば、かつての広場の使われ方に関する思い出や、特定の通りに対する率直な印象(「〇〇〇の通りは危なくて歩きたくない..」)といった率直な意見です。
一見すると雑談のような内容も多いですが、そこには地域の安全や新たに整備される公共施設の管理への不安など、生活者としてのリアルな感覚が含まれています。
こうした背景や文脈を理解した上で検討を進めていくことが、結果として納得感のあるまちづくりにつながると感じています。
谷田: 行政の方針と住民ニーズのギャップも可視化されました。市は「ウォーカブルな(歩きたくなる)まちづくり」を掲げていますが、住民からは「駐車場が足りなくて渋滞が起きている、車で来る人を排除しないでほしい」という切実な声が上がっています。
これまでは声の大きい人の意見が「地域の総意」とされがちでした。しかしStoryHubで50名分の意見を同じ文章量・同じ粒度で並列に可視化できたことで、客観的に事実を眺められるようになりました。これは合意形成を図るうえで非常に強力な材料になると考えています。
——集めた情報を今後どのように活用されていく予定でしょうか。
谷田: まずは集まった膨大なテキストデータを再度StoryHubに読み込ませ、共通する課題や認識を抽出したいと考えています。そこから「この街のブランディングはどうあるべきか」をボトムアップで導き出せるのではないでしょうか。
また、「不動産×ストーリー」の可能性も感じています。例えば、広島県竹原市のような重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)エリアでは、物件に経済合理性だけでは測れない価値があります。家を手放す際も「利益が出るから売る」のではなく、「家の名前や歴史を残したいから市に寄付する」という方がいらっしゃいます。
そうした「ストーリー」を不動産情報とセットにして継承していく仕組みが作れないかと考えています。

山根: まちづくりにおいて「合意形成」は避けて通れないプロセスですが、特に地方都市では、“この場所で商売を続けてきた誇り”、“先代から受け継いだ土地への想い”、“地域の歴史や景観を守りたい”など経済合理性だけでは測れないそれぞれの価値観が大きく影響していると感じています。また、「知らない」「聞いていない」という理由でプロジェクトがストップすることも珍しくありません。今回のように、個人の権利や感情が複雑に絡み合う領域で、AIを介して効率的かつ丁寧に声を拾い上げ、可視化しておくことは、手戻りを防ぐリスクヘッジにもなります。今後は、集めた声を個人情報に配慮した形で行政とも共有し、より実態に即したまちづくりにつなげていきたいと考えています。
——お二人は、これからの地方都市における「AIと人の関係」をどう捉えていますか。
谷田: 私は「社会利他主義」という概念を提唱したいと思っています。資本主義(私有財産×利己)でも社会主義(共有財産×利己/統制)でもなく、日本には「私有財産を認めつつ、共同体意識を大切にする」という土壌があります。人口減少時代において、経済原理だけでは維持できない地方都市を支えるのは、この「社会利他主義」的なOS(基本ソフト)ではないでしょうか。
その際、信用をスケールさせる触媒となるのが「ストーリー」です。AIは効率化のためだけでなく、今まで切り捨てられていた「一人ひとりの個別性」に向き合うためにこそ使うべきです。今までコストが合わずにできなかった「全員の話を聞く」という行為が、AIの力で可能になる。そこにこそ価値があると思います。
世の中の情報スピードは加速していますが、まちづくりや不動産のスピードは遅いままです。このギャップが期待値のズレを生んでしまいます。StoryHubのようなツールで情報整理や合意形成のスピードを上げ、まちづくりのサイクルを速めることで、そのズレを埋められるのではないかと期待しています。また、今後はヒアリング中にリアルタイムで「次はこれを聞いてみたら?」とAIが提案してくれるような機能があれば、担当者のスキルに依存せず、さらに深い対話が可能になっていくのではないでしょうか。

——最後に、同じような課題を持つ組織や担当者へメッセージをお願いします。
山根: URのような公平・中立的な立場の組織こそ、AIを活用して「聴く力」を強化すべきだと感じています。記録や整理といった作業はAIに任せ、人間は対話や関係づくりに集中する。この役割分担は、自治体や支援団体が取り組む際の一助になり得ると感じています。
谷田: 一次情報を集めることがすべての始まりです。これまでは「なんとなく」で進んでいたり、形式的な儀式で終わっていたりしたプロセスが、AIを入れることで「価値ある資産」に変わります。話を聞いてもらったという体験自体が住民の希望になり、そこから新しいプロジェクトが生まれる可能性もあります。ぜひ、まずは「聴く」ところから始めてみてほしいですね。
執筆: StoryHub(AI編集アシスタント)
編集:インクワイア
撮影:加藤甫