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業務効率化を超えた「AI時代のジャーナリ...

業務効率化を超えた「AI時代のジャーナリズム」への挑戦、朝日新聞社がStoryHubの社内導入を推進する理由

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2026年03月24日

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株式会社朝日新聞社

朝日新聞社は2025年8月、AI編集アシスタント「StoryHub」を本格的に導入しました。導入から約6か月で180人、28部署での活用を推進し、一部部署では外注費削減やイベントレポート作成時間の10分の1への短縮などの成果を生み出しています。

同社でのAI利活用を推進するのは、記者職として政治部やソウル特派員を経験し、現在はCTO室IT政策・リサーチ担当部長とAI委員会事務局長を兼務する東岡徹さん。東岡さんに、その取り組みや業務提携に至った背景について聞きました。

■プロフィール 

東岡 徹さん
朝日新聞社 CTO室IT政策・リサーチ担当部長 1997年朝日新聞社入社。記者職として政治部(2005年〜)、韓国ソウル特派員(2014〜2017年)を経験。朝日新聞労働組合委員長も務めた。2025年4月よりAI委員会事務局長として、AIの利活用促進とAIガバナンス構築を担当。趣味は草野球。ポジションはキャッチャー。

■サマリ 

導入前の課題
・社員数が5,000人から3,700人に減少、デジタル発信業務は増加
・業務効率化によって、定型業務はAIに任せ、取材などに工数を割きたい

導入後の効果
・登録ユーザー約180人、28部署で活用
・ウェビナーコンテンツの外注費が不要に
・社内イベントレポート作成時間を2時間から10分未満に短縮
・首都圏クリップなど紙面でもAI生成記事を掲載

人は減っているけれども仕事が増えている——朝日新聞社の構造的課題

——東岡さんのこれまでの経歴と、現在の役割について教えてください。

東岡さん:私は1997年に朝日新聞社に記者職で入社し、2005年から政治部、2014年から2017年まで韓国のソウルで特派員として勤務しました。朝日新聞労働組合の委員長も務めた経験があります。

2025年4月からCTO室IT政策・リサーチ担当部長を務め、社内のAI委員会の事務局長も兼任しています。AIの利活用促進やAIガバナンスの構築、AI動向のリサーチやレポート作成、StoryHubをはじめとした外部企業との関係構築などが主な役割です。

——StoryHub導入前、生成AIの業務活用においてどのような課題がありましたか。

(朝日新聞社 CTO室IT政策・リサーチ担当部長 兼 AI委員会 事務局長 東岡徹さん)

東岡さん:新聞社には編集部門、ビジネス部門、コーポレート部門などがあり、「職種のデパート」と言われるぐらい幅広い仕事があります。かつては社員が5,000人以上いましたが、今は約3,700人です。当然、記者の数も減っています。その一方でデジタルでの発信は非常に増えており、「人は減っているけれども仕事が増えている」という現状があります。これは労働組合の活動で地方も含めてさまざまな職場を回って実感したことです。

人が減って仕事が増えている課題を克服するために、生成AIが大きな貢献をすると感じていました。定型化した作業はAIに任せて、より人間にしかできない作業に集中できるようになるという期待を持っています。

2023年6月に社内版ChatGPTとして「AsahiAI」を導入しました。これは先進企業と比べても早い段階でのAI導入だったと思います。しかし、当時はまだ生成AIの性能もそこまで高くなかったこともあって、普及や定着が進みませんでした。2024年に社内調査を行った際は、アクティブユーザーが全社員のごく一部しかいませんでした。

「AIでここまでできる」という驚き——StoryHubとの出会いから導入までの道のり

——StoryHubを知ったきっかけと、導入を決めた決め手を教えてください。

東岡さん:生成AIに関する情報収集を進めているなかで、2024年8月に佐賀新聞が作った「AI佐賀新聞」を知って衝撃を受けました。「AIで新聞を作ったらどうなるか」という非常に野心的で、未来を感じさせる素晴らしい企画だなと感じました。

佐賀新聞は「AI佐賀新聞」を作った背景やプロセスを詳しく紹介していて、そこでStoryHub株式会社 CEOの田島将太さんが登場していました。田島さんがインタビューで語っていた「AIと取材の相談をして、録音データをAIに送ると、オフィスに戻ったら大体原稿の下書きが書けている」という話には驚きました。最初は「ここまでやっていいのかな」と思いましたが、確かにできるんだろうなと。

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東岡さん:その後、「朝日テックフェス」という弊社のイベントに田島さんを推薦しました。懇親会で、これからのAIがメディアにどんなインパクトを与えるか、記者の教育をどうしたらいいかなどについて話をして、とても刺激をもらいました。AI委員会の事務局長になってからは、田島さんに会社に来てもらって説明会を開催しました。その後トライアルを経て正式に導入しました。

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——導入はスムーズに進んだのでしょうか?

東岡さん:当時は、AIに対する抵抗感も今より少し強かったですね。「AIに任せず、人間がやるべきだ」という観念的なものもあれば、出力結果を見て「まだまだ使い物にならない」という評価もありました。前者には丁寧に説明するしかありません。後者については「8割ぐらいできたらいいじゃないですか」と伝えるように心がけました。私もデスクとして原稿を見た経験がありますが、完璧ではありません。AIに対しても完璧を求めすぎず、最後の責任は人間が負って確認することを強調していました。

——セキュリティ要件についてはどのような対応をされましたか。

東岡さん:私たちのセキュリティレベルは、比較的高めに設定していると思います。取材データは絶対外には出せない大事な情報です。個人情報保護の問題もあります。安全性が確保されていないサーバーにデータを入れるのはNGです。このセキュリティレベルに対応することは必須です。

その対応についてはStoryHubにお願いして、認証システムの改善から始まり、今も脆弱性診断などを依頼しています。StoryHubをフル活用しようと思ったら、大事な情報もインプットできたほうが使い道は広がります。大事な取材データを預けるStoryHubはメディアの一部、あるいは運命共同体なので、メディアと同じレベルのセキュリティを確保していただく必要があると考えていました。

現在、28の部署で活用し、工数やコストの削減の成果も

——現在、朝日新聞社ではどのようにStoryHubを活用していますか。

東岡さん:現時点で登録しているのはおよそ180人、28の部署または媒体で使っています。半分弱が編集部門、半分強がビジネス部門です。最初にビジネス部門で導入し、運営しているバーティカルメディアでの活用を進めました。

先生コネクト」という教員向けWebサイトを運営する部署が、当初から最も積極的に活用しています。イベントの講演内容について、以前は外部のライターに動画を送って文字起こしと原稿作成を依頼していましたが、今はStoryHubで対応しています。原稿料が不要になって、作業だけではなく、金銭的な負担もかなり軽減されました。

また、イベントの開催前に集客も兼ねたインタビュー記事を量産できるようになって、参加者の増加にも役立ったという効果が出ています。

——その他の活用事例があれば教えてください。

東岡さん:朝日新聞の紙面の東京都内版に掲載しているお知らせ記事を、StoryHubで作成して人間が確認したうえで掲載しています。紙面に載せるか、朝日新聞デジタル版のWebサイトに載せるかで媒体は異なりますが、取材をして原稿を書くプロセス自体は同じです。会社全体がデジタルファーストで取り組むなかでも、AI活用は紙面・デジタルの区別なくトライしています。

他には、広報・ブランド部門が社内イベントのレポートを作成して社内のポータルサイトに掲載する際、今までは2時間かかっていたのが10分足らずで終わるようになったとも聞いています。

「レシピ」というプロンプトと最適なAIモデルとの組み合わせがStoryHubのコアな価値

——StoryHubの特に優れていると感じる点はどこになりますか?

東岡さん:StoryHubは、プロンプトが大きな価値だと思っています。一つひとつのオフィシャルレシピは、プロンプトをかなり工夫して作成していて、それを最適なAIモデルと重ね合わせて出力をするのがコア技術の一つだと認識しています。

プロンプトの作成はAIを使ううえで最も重要な行為ですが、その設計は簡単ではありません。StoryHubであれば、希望する条件にチェックを入れていくだけでプロンプトを設定できます。自分で作成するよりも省力化できますし、精度も上がります。定型化した記事であれば、誰でも安定的に原稿の下書きを書くことが期待できます。

——社内でStoryHubの活用を推進するために実施されていることは何ですか。

東岡さん:編集部門で生成AIを活用していくには、まだまだ慎重な手順が必要です。使い方はもちろんですが、リスクについても理解してもらう。AIが作成した後の確認作業もワークフローとして確立する必要があることもあり、まずはスモールスタートで進めています。ただ、スモールスタートである限り、大きなリターンもありません。小さな取り組みを増やしたり、ミディアムサイズの取り組みにトライしたり、徐々に広げていく意識が不可欠だと考えています。

広げていくために、最も大切なのは事例の共有と困りごとの発掘です。それぞれの部署で仕事がまったく違うので、Aという部署でやっていることがBという部署でそのまま使えるわけではありません。ですが、Aの部署のやり方をヒントにすれば新しい使い方が生まれます。こうした事例の共有のために、StoryHubの方にも協力してもらい、説明会を繰り返し開催してきました。StoryHubのトップページを開くと、レシピの一覧が出ます。それを見ていくだけでも、使い方のヒントが得られると思います。

また、業務の棚卸しも重要です。まず業務を棚卸ししたうえで、面倒な作業をすべてAIに任せるのではなく、まずは業務一つずつを検討し、続けるかどうかを考える。そのうえで続けなければならない業務を人間がやるかAIでやるかという仕分けをしていく。AIが得意そうな業務をAIで行う。その中で、StoryHubに任せたほうがいいもの、あるいは他のAIツールのほうが適しているものがある。そこは使い分けかなと思っています。

「AI時代のジャーナリズム」への貢献を目指して

——2025年11月の業務提携に至った背景を教えてください。

東岡さん:弊社社長CEOの角田克は以前から田島さんと面識があり、その人柄や考え方を理解していたことも大きかったです。先生コネクトのように具体的な成果も出てきましたし、StoryHubのみなさんとの信頼関係、システムの性能と将来性を踏まえて、提携の話が浮上し、11月に正式契約に至りました。

そして、田島さんや高野さんに最初にお話ししたのも、「業務提携をするなら大きなピクチャーを描きましょう。日本のジャーナリズムへの貢献です」ということでした。私たちはStoryHubを独占的に利用したいわけではありません。むしろ逆で、AI時代のジャーナリズムを、StoryHubのユーザー企業の皆さんと一緒に考えたいと思っています。

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——今後の展望について教えてください。

東岡さん:まずはStoryHubをより多くの社員に使ってもらうこと。直接会って話す機会を増やすのが一番効果的だと思っています。その先では、AI企業の視点と伝統的な新聞社の視点、それぞれからAI時代のジャーナリズムのあり方を議論し、共有していきたい。答えがすぐ出るテーマではありませんが、多くの方と対話しながら新しいジャーナリズムの形を一緒に描いていければと思います。

StoryHub 朝日新聞社 AIガイドラインインタビュー

執筆: StoryHub(AI編集アシスタント)
編集:インクワイア
撮影: 関口達朗